Home インタビュー 『人の望みの喜びよ &#8...

『人の望みの喜びよ – Joy of Mens Desiring – 』 杉田真一 監督

3月10日、映画『人の望みの喜びよ』の上映会が行われる。上映会を前に、シアトル訪問予定の杉田真一監督にインタビューをした。

取材・文:山田 百合菜

阪神・淡路大震災での心残り

Q. 『人の望みの喜びよ』を作られたきっかけは?

2012年の春に、プロデューサーと映画を作ろうって話が出て、僕がいくつかアイデアを持っていきました。そのうちのひとつが「震災のその後を描いた子どもの物語」だったんですね。

resize0467 その頃、テレビで何度も流れる東日本大震災の被災地の映像を見て、少し離れた東京で普通に暮らしている自分と、何カ月たっても普通の生活に戻れないテレビの向こう側の人たちとの間にすごく距離感を感じていました。そのたびに、阪神・淡路大震災で僕が実際に見た人たちを思い出していました。

阪神・淡路大震災が起きたとき僕は兵庫県・伊丹市に住んでいて中学2年生でした。僕の場合は家の被害も大きくなく、時間が経つにつれて普段通りに学校に通えるようになったのですが、学校では避難をしている人たちが暮らしていて。その人たちがいる教室の前を通り過ぎると、「生活しているんだろうな」っていう空気は感じるんだけど、かといって何かしてあげようって扉を開ける勇気もなかった。今思うとその時「彼らから目を背けてしまった」のではないかという心残りがあったんだと思います。

東日本大震災のあと被災地の映像を見るたびに、この時の感覚が蘇ってきました。だからこそ「震災の物語ではなく、その後の物語」という案が浮かんだのだと思います。

子どもたちが賞をくれたベルリン

Q. 日本での公開以前に、ベルリン国際映画祭での受賞となりましたが、どのような流れでベルリンへ選出されたのですか?

sub1 映画が完成したころに、ベルリンがギリギリ応募できる事がわかり、ホームページからジェネレーション部門(子どもたちが審査員の部門)以外の3部門で出したんです。「子どもの映画じゃないしなぁ」なんて思って(笑) そしたら、ジェネレーション部門のディレクターさんから「この部門で出させてください」と連絡が来ました。

後から知ったんですけど、ホームページからの応募ってほとんど枠がないらしいんです。そもそも、こんな小規模の映画が引っかかること自体ほぼありえない。だから、よっぽどベルリン側の誰かが気に入ってくれたんじゃないかって言われます(笑)

ブラジルでも共感「これは私の映画」
Q. 今まで日本国内・世界各地で色んな方が見られたと思います。印象に残っている観客からの反応はありますか?

まず、ベルリン・ジェネレーション部門での反響ですね。色んな年代の人に見てもらいたいとは思ってたけど、正直なところ、小学生や中学生の子たちが見てどういう反応をするのか、理解してもらえるんだろうかという不安はありました。でも、実際はすんなり受け入れてくれました。

sub3 映画上映会後の質疑応答タイムで、見てくれた子どもたちが「この先、主人公のふたりはどうなるんですか?」って質問を多くしてくれるんです。そのとき、僕はいつも「どうなると思う?」って聞き返すんですが、そうすると大抵すごくポジティブな意見が返ってきます。子どもたちなりに映画を感じてくれたことが嬉しかったです。

そして、もうひとつはブラジル人のおじいさんの言葉。2015年5月にブラジルで公開した時に、ブラジル人のおじいさんが見に来てくれて「これは私の映画だ」と言ったんです。どういうことかと話を聞いてみると、そのおじいさんも小さい頃に親を亡くして、親戚に育てられたらしくて。「こんな遠い国に住んでいる人にも共感してもらえるんだと嬉しく思いました。

監督の映画に対する思い

Q. 映画で表現したかったものは?

今回の映画は人ひとりの、すごく小さな日常的な物語です。僕が中学生の時に見た普通の生活に戻れない人たち、通常メディアでは取り上げられないような日常の物語を映画にしたいと思いました。

「いつか、どこかで、誰かに起こった物語」と思ってほしくない。「自分にだって起こりうる、突然親を亡くすことだって……」と思えるくらいのさじ加減で作りました。賛否は分かれる事が多いですが、それぞれがどんな考えを持ってもいいと僕は思ってます。

Flyer-JoyOfMan'sDesiring ●映画『人の望みの喜びよ』シアトル上映会(英語字幕付き)

杉田監督のQ&Aトークセッションあり。第2部上映会前に監督と制作スタッフを囲んでの軽食付きレセプション。

日 時 : 2016年3月10日(木) 12:00/18:00 (レセプション:17:00)

会 場 : SIFF Film Center

チケット : 購入はこちら映画のみ 一般$10、学生$5、杉田監督とのレセプション付き映画チケット $20

【映画あらすじ】 震災で両親を失った12 歳の春奈と5歳の翔太。親戚の家に引き取られた幼い姉弟は、気持ちを整理するきっかけもない状態で、新しい環境での生活だけが動き始める……。

上映時間:85分