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聴覚過敏:ハイパーキューシ ス(Hyperacusis)

昨年から通院している30代後半の男性は、4年前に神経科医によって聴覚過敏と診断された。英語では、ハイパーキューシス(Hyperacusis)と呼ばれるもので、耳に入ってくる音に対して苦痛や不快感などをともなう状態を指す。周囲の人が気にしないような音が、耳を覆いたくなるほど気になってしまう。普段は気にならなかった音が、やけに頭に響く。
この男性の場合は、4年ほど前に突然この状態が始まったそうだ。それ以来、コンサートの音楽、近くの工事現場の音、バスが停車する音など、高音の音に特に反応するようになった。聞くたびに両耳を塞がないと我慢できないほどになり、とうとう外出する際はもちろんのこと、家の中でも耳栓を常につけるまでになった。バス通勤をしているため、バスが停車する際には耳栓の上からヘッドフォンをさらに装着して、できる限り音を遮断することに努めた。このため、周囲が話しかけても聞こえず、特に妻から不平不満を言われるようになった。
症状がひどくなるにつれて、音に対して敏感になっただけでなく耳鳴りも聞こえるようになり、飛行機内で経験するのと似た、耳がつんとなる感覚が一日に何度も起こるようになった。また今年に入ってからは、嫌な音が聞こえる度に耳から鼻の奥にかけて鋭い痛みも感じるようになったという。特に左耳の症状が右耳よりも悪いようだった。4年前に処方された薬をずっと服用しているが、状態が良くなったことは一度もないそうだ。この状態が改善するのかどうかまったく分からず、途方にくれていたところに、サウンド・リトレーニング・セラピー(Sound Retraining Therapy)のことを知って、当院に来院することになった。
当院のサウンド・リトレーニング・セラピー は、デバイスを耳に装着して何らかの音を聞き続けるようにカウンセリングを行い、最終的にはデバイスなしでも、耳栓などをつけずに、普通に生活できるように指導していくものだ。
この男性の場合は、聴力は正常でMRIや他の脳の検査でも異常が見られなかった。唯一異常だと思われたのは、内耳検査の結果だった。正常な聴力の場合、何らかの音を耳に入れると音量がそれほど大きくなくても内耳がそれに反応するので、反応度を測定することができる。しかし、彼の場合は反応が測定できなかった。まるで重度の難聴者のような結果が出たのだ。
翌週からデバイスの装着を始めた。よほど我慢ができない音を聞くときだけ耳栓をして、その他の時間は耳栓なしでデバイスだけで生活するように指導した。毎日装着して、その後1カ月間で耳栓を使用したのは2回だけ。そのうちの1回は映画館での使用だった。耳の痛みもほとんど消え、気持ちが楽になってきたと報告してくれた。
6カ月経つと耳栓の使用は一度もなく、耳痛もなくなり、耳栓が必要になるようなところではデバイスの音量を少し上げて対処できるようになった。嫌な音を避けるのではなく、音に聞き慣れていくことで状態は大幅に改善された。
次に来院するときには、7月にパパになった感想を聞かせてもらえることになっている。

[耳にいい話]

ワシントン州と米国認定のオーディオロジスト。ワシントン大学で Speech and Hearing Sciences: Communication Disorders で学士号、Doctor of Audiology プログラムで聴覚博士号を取得。2012年にPAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) を開業。 PAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) 1605 S. Washington St. Suite 6, Seattle, WA 1370 116th Ave. NE, Suite 201, Bellevue, WA ☎ 425-455-0526