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頑固で不機嫌な孤老のコメディ 『A Man Called Ove』

『A Man Called Ove』
(邦題『幸せなひとりぼっち』)

©Music Box Films
©Music Box Films

最愛の妻に先立たれ失意のどん底にいる頑固な老人を主人公に、信じられないような傑作コメディが生まれた。スウェーデンで大ベストセラーになったフレドリック・バックマンの同名小説の映画化である。
公共住宅に何十年も住む59歳のオーヴェ(ロルフ・ラスゴード)が主人公。彼は自ら課した住宅地内の安全整備を点検する仕事を毎日欠かさず、異変があれば住民に注意する、という迷惑な頑固オヤジ。45年勤めた会社をクビになったばかりで、半年前に逝った妻の墓参りでは、後を追う約束をしていた。
いよいよ実行の時、窓から異変が見えた。
隣りに越してきた若い夫婦が無茶な駐車をしているのだ。思わず下手な駐車を注意しつつ、彼らを助けるはめに。以来、この賑やかな一家と親切でお節介な若い妻がをオーヴェの生活を乱し始める。
必ず中断されてしまうオーヴェの自殺とそのたびに回想される彼の過去。滅多に笑うことがなかった優しい父、やや偏屈だった彼を丸ごと愛してくれた妻との出会い、その後の幸福な暮らしとある事件。彼の回想と日常に持ち込まれるトラブルを通して、彼の心の変化が描かれていく。
「スウェーデン人なら車はサーブ」というオーヴェと、ボルボにしか乗らない親友である隣人との意地の張り合いなど、頑固オヤジらしいエピソードもたっぷり。人生に起きる悲劇と喜劇を絶妙に前後させながら、雲がすこしづつ晴れ山の全体像が見えていくように、オーヴェの人生が見えていく優れた演出で、2時間足らずで一人の男の生涯を垣間見た気にさせられた。監督・脚本を担当したハンネス・ホルムは、大ヒット小説の映画化にやや気おされたと謙虚なコメントをしていたが、これぞ映画演出のお手本と言える。
オーヴェは地域の安全監視を一人でやっていた訳で、かつてはどんな町内にも一人くらいそういう人がいたのかもしれない。原作のヒットの影には孤老を生かす地域コミュニティへの渇望のようなものある気がした。だが現実はカメラが私たちの暮らしを監視し、孤老を生かす道は荒れたまま。本作を見て泣いたり笑ったりしながら、「見果てぬ夢」という思いがよぎったことも確かだった。

上映時間:1時間56分。シアトルは25日よりLandmark’ s Guild 45th Theatreで上映中。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。