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トランプ政権下で移民法はどうなる?

11月8日の大統領選挙で、大方の予想に反してトランプ氏が次期大統領に選ばれました。選挙結果の驚きと熱狂が次第に落ち着くにつれ、関心はトランプ政権の実際の政策方針に移りつつあります。選挙期間中に彼が繰り返し宣言していた、メキシコ国境の壁やイスラム教徒の入国禁止の印象が強いのですが、現行法を変えるためには議会での可決が必要なため、すぐに何かができるというものではありません。トランプ次期大統領の移民法に関する基本姿勢は、彼のウェブサイト(www.donaldjtrump.com/policies/immigration/)にリストされています。不法移民排除が基本姿勢となりそうですが、一番注目されるのは「DACA(Deferred Action for Childhood Arrival)」と言われる、子どもの時に親と一緒にアメリカに来てそのままアメリカで成長した不法移民の強制退去猶予処分の行方です。

DACAは議会による立法ではなく、大統領命令によってなされた免除処置なので、大統領によって廃止することも比較的容易にできます。DACAのような重要な移民法政策が大統領命令によってなされたのは、オバマ政権時には下院が共和党の支配であったため、立法によって有効な移民法政策が立てられなかったことに原因がありました。オバマ大統領は不法入国した親も対象とする、DACAをさらに拡大した施策も行おうとしました。これはテキサス州などが起こした訴訟によって一時差し止めとなりました。本件は連邦最高裁で審議されたものの、2月にスカリア判事が急死したために4対4の評決となり、現在も一時差し止め状態が続いています。連邦最高裁判事の指名はトランプ大統領が行うため、新判事はトランプ大統領の考えに近い人物となる可能性が高いでしょう。

先行きが注目されるDACAですが、興味深いことに11月22日に発表されたトランプ時期大統領のビデオメッセージでは、DACAのことは一切触れられていませんでした。3分弱のメッセージの中で移民法に関して彼が触れたのは「アメリカ人労働者の賃金低下を招くビザ不正使用に関して、労働省に調査を命じる」ということだけでした。労働省は、移民法の中ではアメリカ人労働者の賃金に悪影響を与えないための、ビザ申請時の支払賃金決定や、アメリカ人労働者の雇用機会の保護を監督・指揮する省です。ビザ取得時や取得後の外国人に対しての給与支払いに関して、監査を通じて法令を遵守させ、違反した雇用主に罰金・罰則を課す権限を有します。労働省による監査は、現行の法令下ですでに認められている権限であるため、すぐにでも強化することが可能です。

今回の選挙では、上下院とも共和党が多数を占めることになりましたが、トランプ時期大統領が述べているような「監査」を通じてのアメリカ人労働者保護は、伝統的には民主党政権下でされていた政策です。共和党は雇用主側の利益に沿うような政策をとることが一般的です。監査が強化されると、その対応のために雇用主の負担が多くなり、それだけビジネスのためのコストが上昇するため、共和党のもとではあまり好まれる政策ではありません。監査を強化するとなると、そのための予算をつける必要もありますが、共和党支配の議会のもとでどこまで雇用主に負担を強いる政策を実行するかが注目すべき点です。

DACAに注目が行く現状ですが、日本人や日系企業に関して言えば、労働省の監査の強化など、現行法ですぐに対応できる施策からの影響が出てくるのではないかと予想されます。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118