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島を救う果敢な少女の物語 『Moana』

『Moana』
(邦題『モアナと伝説の海』)

©Walt Disney Studios Motion Pictures

ポリネシアを舞台にした大ヒット中のディズニー・アニメだ。主人公は海と深い関わりを持つ村のチーフの娘モアナ(アウリイ・クラヴァーリョ)。大きな瞳に褐色の肌、ふっくらとした体型が愛らしい少女だ。ある時、彼女の島の植物が枯れ、魚が消えるという生存の危機が迫ってくる。祖母(レイチェル・ハウス)から島民の歴史を聞かされたモアナは、島を救うため一人で航海へ。島の呪いを解く力を持つ半神マウイ(ドウェイン・ジョンソン)を見つけ出し、彼と共に危険な冒険の旅を始める。

吸い込まれそうな青い南太平洋の海を背景に、賢く果敢な少女と動く刺青を彫った半神が歌い、笑わせ、軽妙なアクションを見せてくれる上出来のアニメ。娯楽作品としては、文句のつけようがないが、ポリネシアの人からは、島々によって異なる伝説をゴチャ混ぜにしているという指摘も出ている。

ディズニー側は、これまでで最も現地の文化や伝統に忠実に作るべく取材し、多くの現地アドバイザーが参加して製作したと言い、確かに着衣などのディテールはよく描けていた。しかし、何人現地アドバイザーがいたとしても、作り手はディズニー。文化やジェンダーに細心の配慮をするのは、当たれば莫大な利益になるアニメ商品を作っていたからだろう。

本作が『風の谷のナウシカ』の物語とよく似ていると思ったら、監督の一人のジョン・マスカーは、ジブリのヒロインに強く影響を受けたと言っていた。だが、ナウシカとモアナは、似て非なる主人公だ。モアナの決して凹まない快活さには、果敢な少女の最大公約数的イメージが凝縮されている。つまり、誰がみても好感度抜群なのだ。それに比べてナウシカにはどこか悲痛な懸命さがあり、個性があった。それは宮崎駿という作家の想像力の中で醸成された少女の像であり、アドバイザーなどとは無縁に造形されものだ。本作は見ていて実に楽しいし、ホリディシーズンを彩る娯楽作品をクサすつもりもないが、感動という体験から遠いのは、こうした作られ方の違いがあるからなのかもしれない。

ポリネシアの少女と言えば、2002年のニュージランド映画『クジラの島の少女』がある。感動とはこういう映画を見て体験するものではないだろうか。

上映時間:1時間43分。シアトルはシネコン等でスタンダード、3D両バージョンで上映中。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。