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しゃべる猫しおちゃんと飼い主のしんコロさん

「猫は愛情深いですねえ。すごく可愛いです」と、まさに目に入れても痛くないと言いたげな笠原進司さん

ブログで大人気の「しゃべる猫しおちゃん」とその飼い主「しんコロさん」こと笠原進司さんはシアトル在住。「ぜひ取材してほしい」という読者からのリクエストに応えて、ふたりに会いに行って来ました。
取材・文:越宮照代 写真提供:笠原進司

Uディストリクトに近いアパートの4階がしおちゃんと笠原進司さんの住まい。迎えてくれた笠原さんは、優しい笑顔が素敵な好青年だ。お昼寝中だったしおちゃんは、笠原さんがキッチンでお茶の用意をしていると眠そうな顔で登場した。「こんにちは」と声をかけても眠いのか返事がない。はっきり目覚めるまで笠原さんにしおちゃんとの「なれそめ」など伺うことにした。

アニマルシェルターで見つけたみすぼらしい黒猫

笠原さんがしおちゃんと出会ったのは2007年8月13日、シアトルのアニマルシェルターでのこと。猫が欲しくてシェルター通いをしていた笠原さんはその日、一番端のケージでこっちを一生懸命見つめ、「ぷるるるる、ぷるるるる」と鳴いている痩せたみすぼらしい黒猫を見つけた。ひざに抱くと体全体をすり寄せて来る猫に笠原さんはすっかり心を奪われてしまった。しかしその日は決心が付かずに帰ってしまい、夜になって「ああ、引き取ればよかった」と後悔に苛まれた。翌日引き返すと「昨日と同じように『ぷるるる』って鳴くんです。『可愛い! 絶対にこの子をもらう。絶対、人にやらない』って思って、すぐ手続きをして引き取りました」。

おなかの辺りの毛がチョコレート色をしているところから、シアトルにあるチョコレートブランドの名前をとってTheoと命名。ところが当時同居中の妹さんが「Theo」を「しお」と日本語発音で呼び始め、そのうちすっかり「しおちゃん」が定着してしまった。

書籍表紙
DVD「しゃべるねこ しおちゃん」。しおちゃんの可愛い姿とおしゃべりがつまった宝石箱。

ある日突然「おかえり!」

しおちゃんが「日本語」をしゃべるようになったのは、飼い始めて半年くらいたった頃。ある日笠原さんが家に帰って「ただいま」と言うと、しおちゃんが「おかえり!」と答えたのだ。「僕にはそう聞こえたんです」。そばにデジカメがあったのでカメラを構えてもう一度「ただいま」と言うと、「おかえり!」。その2秒の短い動画をYoutubeにアップした。「それがすべての始まりでした」。その後、日本のテレビ番組に取り上げられたり、CMに使われたりと、しおちゃんのテレビ出演は25本以上になり、すっかり有名猫になった。そして昨年10月にはフォトエッセイ『しゃべるねこ しおちゃんと僕。』が出版された。

「編集の方から『しおちゃんとの出会いから共同生活、そして未来へという、ドキュメンタリーのような形で書いて欲しい』と依頼されたんです。最初は僕自身が表に出るのはどうかなと思ったんですけど、今はしおとの歴史を書けてよかったと思っています」。

笠原さんはしおちゃんの飼い主という以外にふたつの顔を持つ。ひとつはワシントン大学で免疫学の博士課程に在籍する学生兼研究者としての顔だ。2003年から続けているこの研究も今年の5月には終了し、若き博士が誕生する。もうひとつの顔はヒップホップのダンサー兼インストラクター。「日本にいる時からダンスは好きでやっていたんですけど、真剣にやるようになったのはシアトルに来てからです」。ハリウッドで活躍するダンサーの振り付けをするトップクラスの師に出会ったことがきっかけで、ステージで踊るまでになった。今では振り付けもし、また週に3回初心者から上級者までを対象に教えている。

ブログ読者を巻き込んだ企画

研究室で実験がある日は夜中まで働くこともあるという忙しいスケジュールの合間を縫って、1年半前から始めた「しおちゃんブログ」は毎日のように更新している。現在、一日平均3万アクセスがあるそうだ。ブログの良いところは読者からの声が聞けること。「可愛い」という声はもちろんだが、「闘病の励みになった、子どもの自閉症がよくなった、しおちゃんの真似をして“おかえり”と言ったら冷めかけていた夫婦仲がよくなった、など思いがけない反応があって嬉しいですね」。

今年の1月にはブログ読者参加の企画を実施した。読者からしおちゃんのアバターを地域の名所などで撮影してもらい、送られてきた膨大な数の写真から125枚を選び徹夜で編集し、10分のビデオ「しおちゃんの世界の旅」に仕上げた。世界中にファンがいるからこそ実現した企画だ。

「ブログの読者の中にはいろんなタレントを持った人がいるので、近い将来そういう人たちと何かプロジェクトができたらいいなと思っているんです」。 出版物やCMなどの収入の一部をアニマルシェルターへ寄付している笠原さんはこれからも出版を含めていろいろなことを手がけ、収益を寄付していきたいと考えている。

インタビュー中、突然、笠原さんが手元のカメラを構えた。ふと見ると、私の座っている椅子の足にしおちゃんがタックルしている。手を近づけるとますますエキサイト。すっかり目が覚めて丸い目をもっとくりくりにしたしおちゃんにソイソース読者へ一言、とマイクを向けた。その答えは、「ふんふん」と匂いをかいで「ほんわかん」。その可愛い声はブログでどうぞ。

ブログ:しゃべるねこ、しおちゃん

www.okyn.jp/

紀伊国屋書店シアトル店で本とDVDのサイン会が開催される 日時:2月27日(日)1:00pm~3:00pm 住所:525 S. Weller St., Seattle, WA 98104 詳細:☎ 206-587-2477 笠原さんのダンスレッスン(火・木) ※3月からは未経験者のためのコースが始まる 場所:eXit SPACE 詳細:www.exitspacedance.com