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シアトル教育特集2017年版「日本式?それともアメリカ式?」

日本式?それともアメリカ式? ーシアトル学校特集2017年版

日本とアメリカ、国が変われば教育スタイルも違います。今回は日米の教育システムの内側を知る2人の先生からお話を聞きました。シアトルで受けられる日本語の教育機関もあわせてご紹介します。

取材・文:渡辺菜穂子、小村侑子

 

アメリカ教育の良さ

自由でも、やるべきことはきっちりやっている

高場政晃(マサ)先生

日本の現役高校教師が、マカティオ市のカミアック高校に1年間在籍した。兵庫県とワシントン州による教員派遣制度により、学校レベルの国際交流をはかることが目的だ。日本語クラスの授業をしながら、他教科や他校の授業見学、マカティオ学区の教育委員会参加など、幅広く活動しアメリカの教育事情にどっぷり浸かった。「とにかく学校が大好き」と言うマサ先生が、アメリカ式教育の良さを語ってくれた。

取材・文:渡辺菜穂子

学校システムについて

アメリカの学校では、学習・進路カウンセリング、生徒指導、成績や出席管理などをそれぞれの専門職員が行っているため、教師が授業に集中できます。日本の学校では限られた人員で多大な業務をカバーしなければならないため、教師が授業にかけられる時間が限られてしまいます。アメリカは教育にしっかりお金をかけて、必要なところに適切に投資できている環境だと思います。

また、IT機器が整っていて、先生たちがそれを有効活用していました。例えば、社会のクラスで生徒たちが回答ボタンを使って4択問題に答え、その動向がスクリーンに反映されたり、グループワークで各自ノートパソコンを操作して「Googleドキュメント」などの共有ソフトで同時編集したりします。日本では指導要領に「コンピュータを使った授業を推進」とあっても、実際は設備が追いついていません。コンピュータ室に行けば生徒各自のコンピュータがありますが、各教室に揃っているわけではありません。私は以前日本での授業でコンピュータを使おうと試みた時期があるのですが、ノートパソコンとプロジェクターを各教室に持ち込み、接続し、授業後に外してまた次の教室へ移動するといった手間がかかりすぎて、続けられませんでした。

授業スタイル

日本で最近よく話題になる「アクティブ・ラーニング(生徒主導の学習法)」が、アメリカでは全ての授業で実践されています。例えば日本語クラスでは、漢字を書いて覚えるのではなく、漢字にストーリーをつけて発表します。感心するぐらい面白い発想がどんどん出てきます。新しい語彙に関しても日本だったら「ここを覚えなさい」で済ませるところを、言葉の定義を作らせるなどして考えさせます。このようなクリエイティブなクラス活動は、ぜひ日本の授業でも取り入れていきたいです。

生徒の達成度

アメリカでは、日本のように授業の内容をノートにとるというシステムがありません。これで毎時間学んだことが頭に残っていくのかと最初は疑問に思いました。 しかし、アメリカの授業は何かを覚えることが目的ではなく、例えば国語の授業で「物語に対する批評を書く」など、各生徒が独創的に何かをすることが目的なので、ノートをとる必要がないのだと思い至りました。
そのため、授業中の規則は日本と比べてかなり自由。それでも生徒たちはやるべきことを案外きちっとやっています。いろんな授業を見学しましたが、生徒たちには常に積極性が求められているので、みんな真剣です。

印象に残った出来事

派遣されて間もない頃、授業中に生徒を怒鳴ったことをよく覚えています。クラス活動に参加しない生徒を注意しても聞き流されるということが続いて、ある日スイッチが入って「何しとんじゃ、コラー。何回も言うとるやんか、お前」と怒鳴ったのです。つい日本の学校のような怒り方をしてしまったのですが、こちらにはこちらのやり方があると反省し、翌日大きい声を出したことを謝りました。そうしたら、その生徒たちが態度をコロッと変え、「先生」「先生」と慕ってくるようになりました。結果的には、怒って良かったというか、ダメなことをダメと言うのは万国共通で、そこは自然体でいこうと思いました。ただ、それ以降は怒鳴っていません。私自身の度量も大きくなり、冗談を言いながら注意するという技も覚えました。

日本でアメリカ式の教育を取り入れるには

まずは雰囲気作りです。生徒が積極的に授業に参加し、人前で発表することを恥ずかしがらないようなクラスにしたいです。日本では「黙って座っていればよろしい」という雰囲気があり、授業を聞いていなくても聞いているフリができれば良し、教師側も聞いているフリをしない生徒を注意しなければならないというプレッシャーがあります。ですから、授業中も態度の悪い生徒が目につき、それをえんま帳に書き込んでいく「減点方式」となります。でも減点法では生徒が萎縮してしまいます。
アメリカでは基本的に頑張った生徒を褒め、そこに注目します。生徒の授業態度に関しても、許容量に幅があります。そうすると、どんな生徒も居場所があり認められていると感じます。井上先生の日本語クラスでは(注:マサ先生は、井上先生の日本語クラスで第2教師としてチームティーチングを行っていた)、SAD(社会不安障害)と診断されている生徒たちも、伸び伸びと授業に参加していました。一時的な授業態度などにこだわるのでなく、長い目で見て学習達成すれば大丈夫だという考え方にしていきたいと思っています。

高場政晃先生
幼少時は親の転勤のため各地を転々として過ごす。1996年高知大学教育学部(小学校教員養成課程)卒。中学校教諭を5年、翻訳会社勤務6年を経て、2010年から神戸北高校教諭。担当教科は英語。
「大学を卒業してから中学教師になったのですが、しんどくて一度辞めました。でも、生徒から手紙が来て辞めたことを後悔しました。それで再度教員採用試験に挑戦し、毎年受け続け、7年目に採用されました」
兵庫県教育委員会とワシントン州教育省が教育交流の一つとして行っている1年間の相互教員派遣制度により、2016年4月から1年間マカティオ市にあるカミアック高校に赴任。本教員の井上善誉(いのうえよしたか)先生について、日本語クラスを担当。
「この教員派遣制度に参加したおかげで、多くのことを学びました。唯一残念なのが1年で終了してしまうこと。1年目に多くの人と会って人間関係を築いたので、2年目があったら色々なイベントを企画したりなどもっと貢献することができるのにと思います」
2人の娘の父親でもあり、「ファザーリング・ジャパン関西(fjkansai.jp)」のメンバーとして、父と子がもっとワクワクするために活動中。趣味の落語では「猿山亭もん吉」の名で高座に上がる。

カミアック高校

マカティオ学区の教育委員会最高責任者(右)と

カミアック高校本教諭日本語担当の井上善誉先生(左)と

WAFLT(ワシントン州外国語教育会)で、外国語教授法について発表

高場ファミリー。「アメリカは家族との時間がたっぷり取れるから素晴らしいです」

日本文化紹介として英語で落語を披露。「普段全く勉強しない生徒が『おもしろかった』とわざわざ言いにきてくれました」

 

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ソコリック奈緒子先生

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北米シアトル在住のライター/編集者。現在はフリーランスとして、シアトル情報全般に関わる取材&執筆を引き受けている。得意分野はアート&エンターテインメント、人物インタビュー、異文化理解。元『ソイソース』編集部員。ピアノ、さる、旅、日本語の文法分析が好き。