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コーヒーでADHDかどうかがわかる?

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

コーヒーでADHDかどうかがわかる?

雨の日が続くシアトルの生活に欠かせないのがコーヒーです。その主成分であるカフェインは眠気を解消させ、記憶力や集中力を高めるため、多くの人に愛飲されています。このコーヒー、実はADHD(注意欠如・多動性障害)の子どもに飲ませると、多動が収まったり不注意が減ったりするとも言われます。

ADHDはよく知られる発達障害のひとつで、主な症状は不注意(集中力がなく気が散りやすい、忘れっぽい)、多動(過度に動き回る、話が止まらない)、衝動性(抑制が利かず、他者の言動に割り込む)です。どの症状が優勢かによって、不注意が目立つ型、多動性が目立つ型、混合型の3つに分けられます。米疾病対策センター(CDC)によると、米国では2003年〜2011年の8年間で子どものADHD患者数が43%も増え、子ども全体の11%に当たる640万人がADHDの診断を受けています。

ADHDの原因はまだ解明されていませんが、脳の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンがうまく脳の前頭前野に運ばれず不足気味となって機能異常を起こすのではないかと考えられています。前頭前野は、注意を持続させる、感情をコントロールする、物事を整理して優先順位をつける、全体を見通すといった論理的思考の司令塔であり、こうした実行機能がうまく働かないことでADHDの症状が引き起こされると推測されます。脳の機能異常は遺伝的な要因のほかに、胎児期における環境も関係しているとされ、親の育て方や愛情不足によって引き起こされるものではありません。

子どもが教室でじっとしていられず動き回る、ほかの子とけんかになることが多い、感情や行動の切り替えができずに日常生活に重大な支障を来していると感じるようであれば、学校の先生にも話を聞いた上で、早めに専門家に見てもらうことが大切です。まずはかかりつけの医師に相談し、必要であれば専門機関を紹介してもらうと良いでしょう。

米国児童青年精神医学会(AACAP)では、ADHDの子どもの70%には何らかの学習障害があるため、診断にはウェクスラー式知能検査(WISC-IV)などの知能テストも必要だとしています。ADHDの脳は言語性知能のひとつである作動記憶の指数が低いとされ、各項目を合わせた全体的知能が通常(90~109)であっても、言語理解が高く作動記憶が低い場合は、大人びた言葉をしゃべるが物忘れやミスが多く、やる気がない子だと誤解されてしまいます。診断をしてもらう機関では知能テストを行っているかどうかも事前に確かめるといいでしょう。また、ADHDの子どもの半数はうつや不安などの二次障害も併発するとされており、早めの療育と必要に応じた治療薬の使用が大切になります。

ADHDの治療薬としては、リタリン、コンサータ、フォカリン、アデラル、ヴァイヴァンスなどの中枢神経刺激薬が幅広く使われています。ちなみに、日本ではADHDの患者へのリタリン処方は2007年末以降禁止されています。こうした中枢神経系にかかわる薬は依存性が高いことから、ノルアドレナリン活性薬で乱用性のないストラテラもよく処方されます。ほかには、前頭前野が神経伝達物質を受け取れるよう助けるグアンファシン(商品名:インチュニブ)も。治療薬には、食欲減退や不眠、体重減少、頭痛や腹痛といった副作用もつきものなので、処方に関しては医師とよく相談しましょう。

さて、コーヒーがなぜADHDの症状を改善するか、もうおわかりでしょう。カフェインが、中枢神経を刺激して覚醒作用を促すからです。実際に、ルイス大学のレオン博士が行った19本の論文のメタ分析によると、ADHDの子どもにカフェインを摂取させたところ、治療薬よりは効力は低いものの多動が減り生活が改善したという結果が出ています。ただし、まだ十分な研究がなされていない分野であり、子どもの言動が気になるようでしたら一度専門家に相談してみたほうがいいでしょう。質問やお悩みなどは、お気軽にhiroko@lifefulcounseling.comまで。

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com