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「先送り」システムの限界と未来の日本

┃「先送り」システムの限界と未来の日本

『未来の中国年表』近藤大介(講談社現代新書)
超高齢大国でこれから起こること

『未来の中国年表/超高齢大国でこれから起こること』(近藤大介著、講談社現代新書)は、2017年にベストセラーとなった『未来の年表』(河合雅司著、講談社現代新書)と同様に、「人口の観点から未来を予測する」という手法で、人口統計データをもとに超高齢化が進む中国社会の今後30年を予測している。

日本が直面している高齢化のマイナス面は、推定人口13億9千万人超、日本の約11倍の人口を抱える世界一の人口大国に、日本と同じようなスピード、日本の約10倍の規模で押し寄せている。日本と違うのは、2015年まで続けられていた「一人っ子政策」の影響で、男女比率のゆがみが生じていることである。本書の「未来年表」では、「2020年には、適齢期の男性が女性よりも3,000万人も多くなる」と予測し、どのような社会現象が起きるかを大胆に予想している。

2036年、日本の限界が訪れる。元経産省キャリア官僚がそう警告しているのが、『逃げられない世代/日本型「先送り」システムの限界』(宇佐美典也著、新潮新書)である。年金、安全保障、財政赤字……。2030年半ば、つまり団塊ジュニア世代が高齢者になる頃には、「問題はわかっているけれど対策が講じられない」と先送りにされてきたさまざまな課題が限界を迎え、国際社会の中での日本の影響力も相当低下し、本格的な苦難の時代を迎えると予測している。

『逃げられない世代』宇佐美典也(新潮新書)
日本型「先送り」システムの限界

タイトルの「逃げられない世代」とは、現在20代から30代(1979年から98年生まれの世代)、団塊ジュニア以降の世代であり、1981年生まれの著者もその世代に含まれているという。これまでなぜ問題が「先送り」にされ続けてきたか、将来の危機にどのように備えていくべきかを論じている。

 

┃持続可能な医療とは

『警備ビジネスで読み解く日本』
田中智仁(光文社新書)

高齢化により、日本の医療費は年々増加しており、その6割から7割は高齢者の医療費となっている。しかし、一部を除きそれを支えているのは現役世代の拠出する税金や保険料によるものである。医療費の増大は現状では将来世代に借金のツケをまわすことになるが、医療産業は今後最大の「成長産業」でもあり、国際競争力や雇用の面でも、医療費の規模を小さくすることが望ましいとは一概に言えない。

『持続可能な医療』(広井良典著、ちくま新書)では、これから人口減少、低成長時代に突入するに当たり、医療費の配分(社会全体の中で医療費にどれだけの資源やお金を配分するか、医療費の中でどの分野に資源を配分するか)について、持続可能な医療という観点から検討すべきだと提言する。

『金融政策に未来はあるか』(岩村 充著、岩波新書)では、バブル崩壊後、後に「失われた20年」と言われるまでになった長い不況は何だったのか、日本人がなぜ「失われた」時間と感じたのかを分析している。著者は、敗戦後の日本の経済復興を「日本人の努力と資質による」と記憶し、その成功体験を忘れられない人々は、「日銀がもっと上手に金融政策を運営していれば、これほど苦境に陥らなかったはずなのに」と不満に感じていたとしている。「失われた20年」というよりは、「日銀が失わせた20年」という思いが、この言葉の根底にあると指摘している。

オフィスや商業施設、工事現場など、近頃は、あらゆる場所で警備員の姿を目にする。『警備ビジネスで読み解く日本』(田中智仁著、光文社新書)は、ここまで身近な存在でありながら、あまり知られていない、警備ビジネスの実態と課題について研究している。今、警備業界にとって最も大きな課題は、間近に迫って来た2020年のオリンピック・パラリンピック。

大幅な人員増が求められる中、警備・案内ロボットの運用、AIによる防犯システムの運用や、警備体制の把握も進められている。AIやロボットに警備員は取って代わられるのか、実用化に当たって懸念されることなどを論じている。

※2018年6月刊行から(次号につづく)

連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。