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秋のヘルスケア2018「インフルエンザ対策」

寒くなると体のあちこちで変調が出がち。ホリデー・シーズンを気持ち良く過ごすためにも、気になる悩みは今のうちに解決しておきましょう!シアトル周辺のクリニックや組織で活躍するドクター、ナースプラクティショナーに話を聞きました。

取材・文:ハントシンガー典子

▶一般内科医・吉岡みのり先生が解説するインフルエンザ

毎年のフルショット、どうしてる?
毎年秋から冬にかけてインフルエンザの予防接種(フルショット)が話題になります。身近なもので、誰でも知っているインフルエンザですが、正しく理解している人は意外と少ないものです。そこで、診察でよく聞かれる質問とその回答を交えつつ、フルショットについて説明したいと思います。

1. フルショットを受けたのに何回も風邪を引いたのはなぜ?

インフルエンザと風邪は別物です。

アメリカではインフルエンザのことを「フル」と呼びます。「症状がひどい風邪」であっても、それをフルと言っている人がよくいますが、風邪とインフルエンザは全くの別物。同じウイルス感染であっても、全く違うウイルスによる感染で、症状のひどさが違います。天気でたとえるなら、普通の風邪が「雨」、インフルエンザは強烈な「台風」です。

フルショットはインフルエンザの予防接種ですので、普通の風邪には効きません。「フルショットを受けたら何回も風邪を引いた。だから今年はしない」というのは間違いで、もともとフルショットは風邪とは全く関係がないのです。

 

2. フルショットしたのにフルになった。どうして?

「感染」と「発症」は違います。

私たちの体は、毎日あらゆるウイルスや細菌にさらされています。でも、毎日風邪を引いたり具合が悪くなったりしているわけではありません。これは、私たちの体の免疫という機能のおかげです。私たちが吸い込んで喉にくっ付いてしまった風邪のウイルスを、私たちが知らないうちに免疫が反応してやっつけてくれているわけです。しかし、その免疫が追い付かず、ウイルスがどんどん増え出すと、熱が出たり咳が出たり、症状として出るので、この時点で「風邪を引いた」とわかります。つま
り、私たちは「感染」しても気付かず、「発症」するとわかるわけです。

フルショットは、免疫に前もって「これがインフルエンザですよ」と教えるものです。インフルエン
ザが体に入って来た時に反応してやっつけて、発症せずに終わる場合、私たちはその恩恵に気付きません。フルショットをしていても、大量のウイルスを吸い込んだ場合などは、免疫が追い付かず発症します。しかし、していないときより免疫が早く反応できるので、症状がずっと軽くて済むのです。

 

3. 小さい赤ちゃんに、フルショットはまだ早い?

乳幼児にこそ、フルショットは大事!

フルショットは生きたウイルスではないので、注射のせいでインフルエンザに感染することはありません。インフルエンザで怖いのは、肺炎などの合併症で、5歳未満の子ども(特に2歳未満)、妊婦、65歳以上の高齢者、糖尿病、心臓病、肺の病気などがある方にとっては、死に至るケースもあるほど非常に危険です。

2で述べた通り、フルショットをしておくと、もしインフルエンザにかかったとしても重症化しにくくなります。フルショットは生後6カ月以上で受けられます。これは「6カ月未満の赤ちゃんには危なくてできない」のではなくて、免疫機能が未熟なため、フルショットをしても反応できず、意味がないためです。

私の子どもも、2人は9月生まれのため、冬の間はひやひやしながら待ち続け、3月に6カ月になったらすぐ、その日のうちにフルショットを受けました。インフルエンザのシーズンは毎年5月くらいまで続きます。生後6カ月ですぐにフルショットをして、赤ちゃんを守ってあげてください。家族はもちろん、学校、保育園の先生など、周りの人も受けることが大切です。

 

4. 誰でもフルショットを受けていいの?

アレルギーなどで、できない人もいます。

フルショットにはごく少量の卵のたん白が入っているので、重度の卵アレルギー(アナフィラキシー)がある人はできません。軽いアレルギーの場合は問題ないですが、かかりつけ医に相談しましょう。そのほか、ギランバレー症候群というまれな病気になったことがある人も受けられません。

それ以外であれば、フルショットは生後6カ月以上の人全員が受けるべきです。自分を守るだけではありません。3で述べたようなリスクの高い人を守るためにも、本人だけでなく、家庭や学校でかかわる周りの人たち、それ以外の人たちも、ぜひフルショットを受けてください。健康な人でも、インフルエンザにかかると車にひかれたかのように全身が痛く、高熱で1週間は寝込みます。フルショットによってインフルエンザにかかりにくくなり、かかってもずっと軽くて済むので、もしまだの方は今すぐ受けて欲しいと思います。

吉岡みのり Minori Yoshioka, MD
バージニア・メイソン・メディカル・センターに一般内科医として勤務。兵庫県出身。国立岡山大学医学部卒。国立国際医療センターにて研修後、米国医師免許取得。バージニア・メイソンにて内科研修修了後、現職に。
Virginia Mason Medical Center
1100 9th Ave., Seattle, WA 98101
☎206-583-2299
www.virginiamason.org

ソイソース編集長。エディター、ライター、翻訳家として日米で18年の編集・執筆経験を持つ。『マガジンアルク』『日本経済新聞』『ESSE オンライン』など掲載媒体多数。2017年から現職。