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今、求められる教育とは何か~シアトルIT ジャパニーズ・プロフェッショナルズ~

シアトルの日本人IT プロフェッショナルたちによって立ち上げられたNPO(非営利組織)、シアトルITジャパニーズ・プロフェッショナルズ(以下SIJP)は、日本とシアトルの子どもたちに英語でのコンピューター教育プログラムを提供しています。代表の今崎憲児さんに、これからの時代を生きる子どもたちに必要な教育について、ITエンジニアとして第一線で活躍するプロの目線から語ってもらいました。

代表今崎憲児さん
子どもたちが大人になる頃、AI(人工知能)によって今の時代に存在する多くの仕事が失われると予想されています。子どもたちは何を学び、どんなスキルや能力を身に付けていく必要があるでしょうか?

 

そう遠くない将来、AIのインフラが整うことによって、単純作業がなくなっていくことは間違いないでしょう。しかし、今までにない新しいものを創り出すクリエイティブな仕事は残るのではないでしょうか。たとえば、ディレクター的な仕事のほか、個性が問われる映画や本の創作などもそうですね。こうした仕事は年齢に関係なく続けられ、また何歳からでも始められます。まさに人生100年時代にぴったりです。クリエイティブな表現力に、コンピューターの知識が加われば鬼に金棒。プログラミングを始めとするコンピューター・サイエンスは、今の算数のような主要科目になっていくでしょうね。いろんな技術が次々に現れ、情報は更新されていきますから、短時間で学べる力がある者とない者とでは差が出てきます。そうなると、素早く新しい技術を自分のものにできる能力があると有利です。

仕事をするうえでダイバーシティ(多様性)も重要なキーワードです。いろんなバックグラウンドを持つ人たちと働く環境が当たり前になると、さまざまな立場を考え、調整し、ゴールに到達するための高度なコミュニケーション能力が求められるようになります。現在主流となっている単元ベースの教育ではなく、プロジェクト・ベースの教育をグループワークを通して行う機会を増やしていく必要があるでしょう。グループ内で具体的な計画、実行、検証を繰り返し、フィードバックを与え合うことでチーム思考をまとめる。こうしたチームワークでの課題解決が重視される時代になっていくのではないでしょうか。

きちんとアウトプットができることも大切。どんなにすごいことをしても、気付かれなければ意味がありません。オンラインで発表し、できるだけ拡散してフィードバックを受けることで多くの改善もできます。現在のソフトウェア開発の仕組みと同じことですね。世界に向けて発信するなら、英語を使うべき。日本語で発表するより先に英語で世に出すほうがメリットが大きいはずです。

 

日本の小学校では2020年度から新しい学習指導要領が実施され、英語やプログラミングが本格導入されますが、どう思われますか?

 

コンピューター教育は、実際にパソコンやタブレットを使って、小さい頃から実践で学ぶことが大切だと考えています。野球で言えば、全ては「素振り」から。インターネットの仕組みやアルゴリズム、二進法など、コンピューターの基礎をやさしく、楽しく、わかりやすく教えていくことから始めるべきでしょう。

たとえば、コンピューター教育サイトとして知られるCode.orgのカリキュラムは、世界各地の学校の授業で取り入れられています。下は4歳から、上は18歳まで、あらゆる年齢の子どもが学べるコースがあります。私が日本の小学校で教えるなら、このサイトを使いますね。なぜなら、日本独自の教材を使うのは極力避けたいと考えるからです。また、これからは英語とプログラミングを別々に教えるのではなく、英語でプログラミングを教えるべきだと思います。

 

SIJPではすでに、日本語を話す子ども向けに英語でプログラミングを教える試みを始めているようですね。

 

以前はコンピューター講座をシアトルのバイリンガルの子どもたちに日本語で提供していました。しかし、コンピューターの基礎知識にしても、用語にしても、元は英語です。それを日本語に翻訳して説明することに、だんだん違和感を覚えるようになりました。実際にITの現場で仕事をする場合、たとえ多国籍企業ではない日本の会社であっても英語は必須。なぜなら、最新情報は常に英語で入ってくるので、日本語訳を待っていたら遅れを取ります。結局、コンピューターは英語が標準なんです。英語でコンピューターを教えるほうが理にかなっていると思うようになりました。今は、英語で教えて日本語でサポートする講座「英語で学ぶコンピューター・サイエンス」の定期開催にシフトしています。

日本でも英語でコンピューターを学ぶ機会を広めたいのですが、それには教師の研修制度を整える必要があります。日本には教えられる人がなかなかいないのが現状。私が知っている限りでは、日本にいる英語ネイティブは文系に偏りがちで、理系は少ないんですね。たとえば、お笑いタレントの厚切りジェイソンのような、IT知識があって日本に住んでいる英語ネイティブ教師が理想です。そのような方と一緒にやっていきたいと考えています。シアトルで行う講座をビデオ会議システムで中継し、授業を日本からサポートしてもらうことでスタッフを育成するという試みも始めており、この「ティーチ・ティーチャーズ・モデル」の確立がSIJPの当面の目標。すでに熊本県、福岡県で実施しています。きっかけとなったのは、2016年に私の故郷を襲った熊本地震です。Kumamoto Aidのサイト立ち上げなど救済活動を続ける中で、熊本の子どもたちに何かしてあげられないかと考え、昨年7月に現地で講座を開催しました。その後もビデオ会議システムで中継し、昨年12月までに全5回の講座を終えたところです。

英語がわからなくても「楽しい」気持ちが大事。教える側が面白いと感じる授業なら、子どももついてくるものです。従来の「勉強」ではなく、手足を動かして遊んでいるうちに、自然とコンピューターの知識が入っていくようにするのが私たちのゴール。シアトルでも、日本でも、講座開催を通して子どもたちの可能性を広げられることができたらうれしいですね。

 

英語で学ぶコンピューターサイエンス「Hour of Code: SHALL WE DANCE?」
ダンスを楽しみながらプログラム作品が完成!
SIJPによる講座ってどんなもの? 昨年12月16日(日本時間)に行われた授業の様子をちょこっと紹介します。
ベルビューにある四つ葉学院と、今崎さんの母校である熊本県合志市の熊本高等専門学校、そして福岡県の飯塚市役所の3会場をビデオ会議システムでつないで行われた授業。子どもたちは最初に、アメリカの子どもならみんな知っている大人気の「フロス」(Floss/Flossing)や「ダブ」(Dab)を含む6種類のダンスを熊本の英会話学校の先生から習った。これから何が始まるのか? 各ダンスは色分けされ、各色を使った図形6個が並ぶボタンが登場。先生がボタンを押すたびに、子どもたちは同じ色のダンスを踊ることに。そしてCode.orgの新プラットフォーム「Dance Party」を使い、同じ要領で動物キャラクターを踊らせるプログラミングを開始。出来上がった作品はアプリでシェアし、子どもたちは「Like」やコメント機能でフィードバックし合いながら交流を楽しんだ。こうして知らず知らずのうちに「イベント駆動型プログラミング」と呼ばれるコンピューターで重要なコンセプトに親しむことができた。

KUMAMOTO


今崎さんがこの企画を思い付いたのは、娘の通うベルビューの私立校、オープン・ウインドウ・スクールで行われたCode.orgのデモがきっかけ。ハディ・パートビCEO自ら着ぐるみでダンスを披露し、会場を沸かせたそう。SIJPの講座でも各会場で子どもはもちろん、保護者までダンスに参加
し、大いに盛り上がった。詳細はSIJPのウェブサイトで見られる。

Fukuoka

 

┃INFO

Seattle IT Japanese Professionals http://sijp.org