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太鼓の学校に聞く:子どもたちが日本の伝統文化を学ぶメリットとは?

シアトル近郊の専門家たちが、悩み多きバイリンガル子育てについて回答。子どもと楽しむ、子育てのヒント。

 

今回のテーマ

Q. アメリカで育つ子どもたちが日本の文化や伝統を学ぶメリットとして、どんなことが考えられますか?

A. 日本人である自分のルーツを学ぶことができ、自己主張と協調性を併せ持つグローバル市民としての心も育ちます。

 

アメリカのプリスクールで、もうすぐキンダーガーテンに入るという年頃の子どもたちが行うアクティビティーのひとつに「ショー・アンド・テル(Show and Tell)」があります。自分のお気に入りのアイテムをみんなの前で紹介し、プレゼンテーション力を磨く練習をするというものです。

ぬいぐるみにしようか、旅行の思い出の品にしようかと迷いながら選んで1品を発表し、自分の意見をはっきりと伝えます。そして、ほかの子どもたちは話を聞き、質問をします。自分と意見が違っても、まずは相手の考えを受け入れることを学ぶ大切な時間です。

これと同じ効果を持つのが、日本の民俗芸能。特に太鼓は、和のリズムと動きに加え「日本の所作」も含まれるため、アメリカで太鼓の演奏を披露することは、日本という自分のルーツの紹介にもなります。

当校は、地元各所で演奏する機会が多く、太鼓を習う子どもたちが通う現地校から公演依頼が舞い込むこともあります。そんなチャンスが訪れたときは許可をもらって、可能な限りその子が一緒に出演できるようにしています。

バイリンガルの子どもは、2つの国のバックグラウンドを持つことからアイデンティティーに悩み、自分をうまく出せないことも。クラスメートや友だちから、「日本の太鼓はクールだね」「そんな特技があったなんて知らなかったよ」という反応をもらうことで、大きな自信につながります。

太鼓は技術向上よりも精神鍛練が必要とされます。舞台袖で大声で話す、衣装が汚れている、太鼓を雑に扱うといった行動は、そのまま演奏に現れます。楽器と道具を丁寧に扱い、仲間を尊重すること、日本人の生活に根付いてきた太鼓とその伝承者である指導者に敬意を払うことが大切。

また、太鼓演奏はほとんどが合奏で、お互いの音を聴き、補い合うように演奏しますので、実社会における協調性を育むことができます。舞台演奏により、プレッシャーに負けない精神力も鍛えられます。そういう意味で、太鼓の稽古とは、自己主張と協調性、習慣やマナーを身に付け、感性を磨きながら心を育てる修練でもあります。

子どもたちは、私たち親世代と異なる、便利で刺激にあふれる時代に生きています。オンラインで友だちと簡単につながる一方、以前よりも子どもらしく、自分らしく生きることが難しくなり、中には悩みを抱える子どもも。多様な価値観や思想を持つ人々が共存するアメリカ社会では、自己をしっかり確立することがさらに求められるでしょう。

自分のアイデアを生み出し、表現できるように、創造性、自己肯定感を高めることも重要です。そのためには、好きなことを発見し、突き詰めること。そのひとつとして、日本の伝統文化にも目を向けて欲しいのです。

急速に変化する世の中では、もはや5年後は未知の世界。幼少期からのプログラミング学習が盛んな今、太鼓など「非ハイテク」な日本の伝統文化を学ぶ必要があるでしょうか? 答えはYESです。仲間と完成させる1曲と稽古の日々、舞台で響く自分の打つ太鼓の音、そこで目にする観客の生の反応……。

太鼓を通して経験する全てが、自分のルーツを自覚すること、グローバル社会を生きるために必要な力につながると信じています。いつの日かAIが太鼓演奏する日がやって来たとしても、生身の人間が心や感情を込めて打つ太鼓はやはり違うでしょう。

教えてくれたのは


太鼓の学校
立石あさこさん
太鼓の学校共同創設者。「太鼓を通じて日本を海外に伝える」をモットーに太鼓の舞台演奏や指導を積極的に行う。桜祭り、ジャパン・フェア、ジャパン・ウイーク、サクラコン、シアトル・シンフォニーによる音楽の祭典「セレブレート・アジア」などでパフォーマンスを披露。5歳以上の子どもを対象とした日英バイリンガル太鼓教室もあり、4歳から参加できるサマーキャンプは7月8日(月)~7月12日(金)に実施予定。詳細はウェブサイトにて。

The School of Taiko
シアトル教室:JCCCW
1414 S. Weller St., Seattle, WA 98144

ベルビュー教室:Bellevue College
3000 Landerholm Cir SE., Bellevue, WA 98007

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