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ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)

「ほかの子と比べて、うちの子は育てにくい」と感じたことはありませんか。たとえば、寝つきが悪い、よく愚図る、音や匂いなどに敏感、服がチクチクするのを嫌がる、繊細で気疲れしやすいなど。これらに当てはまれば、あなたのお子さんは「ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)」かもしれません。HSCまたはHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは、生まれつき感受性が高く、「人いちばい敏感な人」のことで、90年代にエレイン・アーロン博士によって提唱されました。障害ではなく生まれ持った性質であり、人口の15〜20%に見られ、100種類以上の動物にも同じような性質が発見されています。

アーロン博士によると、HSCまたはHSPには4つの特徴があります。

1) 深く考える:人の心や状況を裏まで読み取り、直感的に かつ総合的に考える。

2) 過剰に刺激を受けやすい:五感が過敏で、通常の何倍も の刺激を感じる。

3) 共感力が高い:他人の痛みや喜びを自分のことのよう に感じ、影響を受けやすく感情反応が強い。

4) ささいな刺激を察知する:人の表情や声色、物の動きや 様子など、微妙な違いに気付く。

アーロン博士のウェブサイト(http://hsperson.com/test/highly-sensitive-child-test/)にあるHSCチェックリストで、23個中13個以上当てはまれば、HSCの可能性が高いでしょう。ちなみに、私の子どももHSCで、赤ちゃんの時は寝かしつけが本当に大変でした。トイレの流す音を怖がったり、料理の味が混ざるのを極端に嫌がったりするほか、図形や色のわずかな違いを瞬時に察知します。中学生になった今でも、映画館は音と光の刺激が強過ぎて行きたがらず、伸縮性のないシャツやデニムジーンズなども苦手で着ることができません。

HSCは、感覚が過敏でこだわりが強いところから発達障害と間違われがちですが、社会性や共感性という観点で発達障害とは大きく異なります。HSCの子は、共感力を司る脳神経細胞であるミラーニューロンが発達しており、相手の気持ちや周囲の状況を読み取るのが得意です。一方、発達障害の子はミラーニューロンの活動が低く、相手の気持ちを読むことが苦手。また、HSCはおとなしくて内向的な子と思われがちですが、実は3割のHSCは好奇心が旺盛で新しいことも大好き。冒険や刺激を求めて積極的に行動する「ハイ・センセーション・シーキング(HSS)」型と呼ばれます。HSS型の子は集団生活にも適応し、外交的で自分の意見もはっきり言えます。

とはいえ、大多数のHSCは学校では強い刺激にさらされて気疲れし、中にはストレスから不登校になる子もいます。「わがままばかり言って!」とつい怒りたくなるし、周囲からも「親が甘やかすからだ」と思われて落ち込むことも多く、HSCの子を育てるのはひと苦労です。もともと生まれ持った性質なので、しつけで変えられるものではありません。それでは、どういった子育てが効果的なのでしょうか。

HSCは他人の言葉や表情にひと際敏感に反応します。親が垣間見せるがっかりした表情やため息で「自分はダメな存在なんだ」と落ち込み、自己肯定感が下がります。ましてや怒鳴られたりすると恐怖心が募り、トラウマになって心身に不調をきたすケースも。だけど、敏感なのは否定的な態度だけではなく、肯定的な態度にも当てはまります。なので、とにかくほめて育てることが大切です。「あなたは私にとって大切な存在。今のあなたで100点満点。そのままでいいよ」というメッセージを繰り返し伝え、子どもの心に安心感を与えてあげましょう。そうすることで、情緒が安定して自己肯定感が高まり、子どもはHSCの4つの特徴を長所として受け止めることができます。HSCの持つ豊かな感受性、創造力、共感力を最大限に引き出せるような子育てができるといいですね。

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com