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出産旅行

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。

出産旅行

アメリカで生まれた子どもは、親の国籍に関係なく、自動的にアメリカ国籍を取得することができます。この制度のことを出生地主義(Birthright Citizenship)と言い、アメリカ以外でもカナダやメキシコ、ブラジルなどがこの制度を用いています。出産旅行(Birth Tourism) という言葉を聞いたことがある方もいるかと思います。出産旅行、つまり生まれてくる子どもにアメリカ国籍を取得させるため、国内での出産を目的に妊婦がアメリカに渡航することです。ここ数年は、外国籍の妊婦を対象にしたビジネスの存在がクローズアップされています。アメリカへの渡航準備からビザの申請、宿泊施設や出産する病院、産後のナニーの手配までを高額で請け負うブローカー、出産代理店についてのニュースが目立つようになりました。出産旅行は、1件2〜5万ドルと言われていますので、富裕層が対象であることがわかります。昨年12月には、カリフォルニア州で中国系のブローカーが、中国から多くの妊婦の出産旅行を斡旋したとして有罪判決を言い渡されました。

なぜ、このようなことをするのかというと、アメリカで生まれた子どもは、出生と同時に自動的にアメリカ国籍を取得し、アメリカ人としての特権を受けられるというのも理由のひとつです。しかし、最大の理由は、その子どもが21歳になった時に、外国籍の親のグリーンカード申請をスポンサーできることだとされています。そのため、このような状況下で生まれた子どもはアンカーベビー(Anchor Baby)と呼ばれ、親にとってはアンカー=いかりの存在となります。出生地主義は、たとえ親が不法移民であっても、アメリカと何の結び付きもなく単に出産のためだけにアメリカに足を踏み入れた外国人であっても、アメリカで生まれた子どもに国籍を与え、アメリカ人としての特権や恩恵を受けられるようにする制度です。そのため、悪用されるケースも多く、トランプ大統領は、「アメリカ政府の財政負担を増大させるクレイジーなポリシーだ」と批判し、制度の廃止を検討してきました。

そして1月24日、米国務省は、出産旅行を阻止するために、B-1(商用目的)とB-2(観光目的)ビザ申請に関する新規定を発表しました。米国大使館・領事館でのB-1またはB-2ビザ申請で、審査官は申請者の渡米目的がB-1またはB-2ビザの許容範囲であるかを審査しますが、新規定には出産のためにアメリカ渡航を希望する者にB-1またはB-2ビザを発行することはできないと明記されています。つまり、出産はB-1またはB-2ビザの許容範囲ではないことを明確にしたわけです。そのため、審査官はB-1またはB-2ビザ申請者がアメリカで出産する疑いがあると確信した場合、申請者が子どもを出産することが渡米目的ではないと立証できない限り、ビザの発給を拒否できるようになりました。

なお、新規定は、発表のあった1月24日から施行されていますが、対象となるのは、この日以降にアメリカ大使館・領事館にてB-1またはB-2ビザを申請する外国人のみです。現在のところ、すでにB-1またはB-2ビザを持っている外国人や、日本人のようにビザウェーバーを利用して渡航できる外国人には該当しません。また、B-1またはB-2ビザ以外のビザを申請する外国人や不法入国する外国人にも該当しないため、新規定の効果を疑問視する声があることも事実です。

公的扶助を受ける可能性のある外国人を対象としたルール変更実施へ

第236回の本欄にて、10月15日より変更となる公的扶助を受ける可能性のある外国人(Public Charge)を対象としたルールに関するニュースをお伝えしました。しかしその後、新ルールに関して訴訟が起こされ、一時的に新ルールの実施が停止されていました。1月27日に、連邦最高裁が「停止の状態」を停止すると決定したため(結果的に新ルール実施の決定)、移民局は2月24日以降になされる申請に対しては、イリノイ州を除き、新ルールにて審査を行うことを発表しました。なお、この新ルールの合憲性に関しては、引き続き訴訟が続いています。今回、実施が外されたイリノイ州では、別の訴訟が続いているため、新ルール実施の一時的停止がまだ有効です。

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118