特集 日本語で学べるアートな習い事

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ようすけ（記者インターン）
得意な楽器はリコーダー。いつかは弦楽器も弾けたらと思っている。

アメリカに日本の伝統芸能を広める

歌舞伎アカデミーを主宰するのはメリー大野先生。毎週土曜日に丸一日シアトルセントラル大学でレッスン、その他の日にはタコマの自宅で教えている。レッスンはすべてマンツーマンで、見せてもらったスケジュール表には日本語クラスも含め一週間の予定がぎっしり詰まっている。「生徒さんのほとんどはアメリカ人で、中にはイタリア人もいるんですよ」。イタリアからスカイプでメリー先生の三味線のレッスンを受けているそうだ。ニュージャージー州やミズーリー州、ジョージア州、アラバマ州ほか10州に生徒がいて、スカイプでの三味線レッスンを行っている。三味線という古典的な楽器を、現代のテクノロジーを駆使して教えていることに驚いた。

メリー先生は、終戦直後に始まったNHKラジオ英会話「カムカム英語」の講師、平川唯一氏を父に、神田生まれの江戸っ子を母に持ち、幼い頃から英語と踊りと三味線を嗜んでいた。50年前、シアトルに住む兄を訪れた時、日本の芸能を習いたい外国人が多いことを知り、「踊りを教える人、三味線を教える人、英語を話す人は沢山いるけれども、３つを同時に一人で出来たら自分らしい、これこそマイウェイ」と、考えたのが英語で日本の伝統芸能を世界に広めたいと思ったきっかけだと、歯切れの良い江戸弁で語ってくれた。

音が体に響いた瞬間、心が躍った

長唄と三味線は同時に学ぶものだそうだが、今回は三味線だけのレッスンを受けることに。

「三味線はまず組み立てるところから始めて、弾く準備をするまでが大変なの。今日は私が組み立てますね」とメリー先生。次に三味線が滑らないように膝に置く「膝ゴム」、湿度から三味線を守るために指にはめる「指すり」を渡された。教わった通りに三味線を構えて持つ。三味線を腕と膝で固定するのが難しくて、我ながら構え方がぎこちない。バチで三味線の弦を叩くと、振動が三味線の胴体を通して体に響いてきた。自分の出した音が聞こえた瞬間、心が躍った。「三味線は弦楽器じゃないの、弾奏楽器なのよ」と言うメリー先生の言葉が体で分かったような気がする。練習用のリズムを先生と一緒にテンポよく弾いていくうちに、その美しい音を出しているのが自分なのだと思って、つい顔がほころんでしまった。

大変だったことがひとつ。レッスンの間はずっと正座だ。途中で何度か左右の足の重心を変えて必死に耐えるが、レッスンが終わった時、足が笑ってなかなか立ち上がれなかった。正座ができない人には座椅子があるそうなので、ご安心を。しかし驚いたことに現在メリー先生のお弟子さんたちは全員、正座が苦ではないとか。礼に始まり、礼に終わる日本伝統を学ぶには、そこからお稽古と教えられた。

『となりのトトロ』も三味線で演奏

メリー先生は歌舞伎アカデミーの活動の一環として、生徒さんとサクラコンや桜祭などのイベントに毎年出演している。今年のサクラコンではオープニングで五千人の観衆が喜んでくれる。人気アニメ『フルメタルアルケミスト』のエンディング曲『消せない罪』などを三味線で演奏するそうだ。「こんな曲ですよ」とちょっと弾いてみせてくれる。ゆったりとした曲音だろうと思っていたのに、完全に予想を裏切られた。こんなモダンな曲を三味線で弾けるなんて。より多くの人に三味線を親しんでもらえるようにと、『となりのトトロ』や、『スターウォーズ』、『スーパーマリオ』など、ポピュラーな曲も三味線用の楽譜に採譜して演奏するのだそうだ。

レッスンが終わって「じゃあ一曲、歌舞伎の曲を弾いてあげましょう」とメリー先生は演奏を始めた。聞いたことのある曲だと思ったら、これが有名な『勧進帳』だそうだ。迫力に満ちた先生の演奏を聴いて、感動で胸がいっぱいになった。

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