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特集 シアトルの食を彩るアーティスト

 


「レストランスタッフにありがとうの気持ちを伝えたい」
メニューアート・アーティスト
ドズフィーさん

Dozfy
■テキサス州出身。現在は本業と並行し、訪れたレストランに絵を残すメニューアート・アーティストとして活動する。シアトルのトンプソ ンホテル内のレストラン「SCOUT PNW」で、実際に彼のアートを見ることができる。愛犬のアニーと過ごすことが好きな休日の過ごし方。親日家で一番お気に入りの日本食はそば。
▶︎インスタグラム:@Dozfy

レストランのメニューに絵を描く「メニューアート」で話 題のアーティスト、ドズフィーさん。サプライズギフトとしてレストランに残される彼のアートは、以前住んでいたジョージア州アトランタ界隈でじわじわと話題に。現在インスタグラムを中心に活動する彼は、飲食業関係者のみならずその名を知られるようになった。

子どもの頃から描いていた

「教室の壁に落書きを見つけたら、それは僕の仕業でした」。物心ついたときから絵を描いていたというドズフィーさん。今回の取材で待ち合わせたのは、シアトルダウンタウンにあるベトナム料理店。テーブルにつくなり、店にもらったメニューの紙を愛用のマーカーで黒く塗りつぶし始め た。できあがった黒のバックグラウンドに白の細マーカーをさらさらと滑らせていく。「モノクロ写真のようなイメージで、僕が愛する自然の造形を描いています」と、5分もかからないうちにゾウを描き上げた。その様子は黒板にチョークで絵を描くような気軽さである。

「以前ハイキングに出かけた時、素晴らしい自然を絵で再現できたらと思ったんです。写真のように全くそのままということは難しいんですが」。彼のアートは、モノトーンで描かれる鳥やクジラなどの野生動物、山や花といった彼が愛する自然のシンボルが特徴的だ。

メニューアートとしての原点

取材中に描いてくれたメニューアートたち

ドズフィーさんはカバンから小さなスケッチブックを取り出して見せてくれた。スケッチブックには、毎日書き溜めているというデッサン画がぎっしりと詰まっている。幼少期から30年近くずっと絵を描いているという。毎日同じ作業を続けるのは並大抵のことではない。

地元テキサス州のテキサス大学オースティン校でアートを専攻したドズフィーさん。「大学入学時は全く違う専攻でした。初めは建築工学、次に生物化学、どれも違うと感じて最終的に大好きなアートにたどり着きました」。しかし絵だけで生計を立てていく自信がなかったため、両親の反対もあり大学を卒業すると医療関係に就職した。

趣味として絵を続けていた彼が、メニューアートを始めたきっかけは4年前、当時住んでいたジョージア州アトランタでのことだ。絵以外の楽しみは友人との食べ歩き。食事に出かけては、レシートの裏に絵を描いて一緒にいた友人に渡していた。

ある日友人の一人が経営するレストランを訪れた際、使わなくなったメニューを絵を描くのに使ってほしいと渡される。その場でメニューの紙に絵を描いたところ、思いのほか厨房スタッフに喜んでもらえた。その様子を見てドズフィーさんは「自分にできることはこれだ!」と思ったという。「厨房スタッフは普段、自分たちが作った料理に対する人々の反応を直接見ることがないんです。そこでおいしい料理への感謝のしるしとして絵を渡して帰るようになりました」 と言いながら、取材当日も描いた絵をレストランのスタッフに手渡していた。

インスタグラムを活用したプロモーション

描けるものには何でも描く躍動感のあるタコが印象的なプレートアート

インスタグラムに出会うまで、彼のメニューアートはアトランタ近郊の飲食業関係者に知られるのみだった。彼が世間に知られるようになったのは、旅行で訪れたシカゴのレストランでのこと。店内にある黒板に絵を描いたところ、気に入ったスタッフがお店のインスタグラムなどのソーシャルメディアに写真で投稿。結果アメリカを中心に世界中の人々からイイネやコメントをもらうことになった。

オンラインで人々の反応を受けたドズフィーさんは、この出来事をきっかけにソーシャルメディアを使った活動を開始する。「僕の絵に対する人々の反応を見るのはわくわくします」と話す彼は、以来レストランに残した絵を自身のインスタグラムアカウントに投稿するようになる。彼のキャンバスはメニューだけでなく、ただのメモ用紙からお店の紙ナプキン、描けるものには何でも描く。そんな独自のスタイルが、徐々にフォロワーを増やしていった。

ハッと誰かの目にとまるストリートアートのように

絵のモチーフとして一番多いのが鳥自由の象徴みたいだから好きなんです

趣味が自然の流れで今の形になったと話すドズフィーさん。アーティストとして認識されるようになった今でも、「自分のことを100%アーティストと自覚することはないんです。ただ人々が僕の絵を見て喜んでくれるのは嬉しいですね」と笑顔で語る。「僕のアートは美術館に飾ってあるものとは全く違います。誰が描いたのか分からないけれどハッと誰かの目にとまる、ストリートアートのようなものでありたいと思います」。実は去年の夏に旅行した日本でも、訪問した場所にあらゆる作品を残している。

2年ほど前からシアトルに住む彼は、本業のかたわら、カキの殻に絵を描く「オイスタードローイング」など、メニューアートを越えた作品を制作している。最近はレストランからオファーをもらって描くこともあるそうだ。アーティストとしての実績がシアトルでもだんだん認められ、先日KING5ニュースにも取り上げられた。

「好きで続けてきた絵が今キャリアになりかけているんです」と語る彼は、その絵を描く手を止めることはないだろう。今勢いのある新進気鋭のアーティスト 、ドズフィーさんからますます目が離せない。

 

 

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