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新施設完成!シアトル・ヒューメイン

 

ワシントン州を「ノーキル(殺処分ゼロ)」の地域に

パブリックリレーション・スペシャリスト
アマンダ・アンダーソンさん

Amanda Anderson(アマンダ・アンダーソン)■ジャーナリズムを専攻していた大学時代、アニマル・シェルターでのボランティアをきっかけに、新しい飼い主としてペットの引き取りを経験し、アニマル・シェルターの重要性を実感。2011年にシアトル・ヒューメインでメディア・アソシエイツとして働き始め、2015年から現職。

万全の受け入れ態勢で国内外の動物を保護「命を救い、完全な家族を作る(Saving Lives, Completing Family)」

これは、シアトル・ヒューメインが掲げるスローガンだ。アマンダさんは「ホームレスのペットをなくすと同時に、ワシントン州をノーキル(安楽死ゼロ)の州にすることが、私たちのゴールです」と話す。シアトル・ヒューメインはクリニックを始めとする全ての設備が最新になっただけでなく、施設全体が大きくなったことで、ゴールに一歩近づいたという。

州内にある他のアニマル・シェルターでは、施設の大きさ、設備、人手などさまざまな理由で、最後まで動物の面倒を見切れないことが多々あるが、ここではそうした動物を受け入れる体制を整えている。災害時には、他州、他国から数百頭の動物を救助することもあり、最近ではハリケーンに襲われたテキサス州やプエルトリコから450匹以上の動物を受け入れた。昨年は全体で4,677匹の動物を引き取ったそうだ。

そうした動物のほとんどに、新しい飼い主が見つかっている。その秘密はどこにあるのだろうか。

新しい家族との縁をつなぐ場所に

「アメリカでは毎年、何百万匹ものペットがアニマル・シェルターに連れて来られます。ペットに問題があるというよりも、飼い主がなんらかの理由で手放すケースが圧倒的に多いのです」

遠方への引っ越し、赤ちゃんの誕生、ほかのペットとうまくいかないなど、理由は多岐にわたる。金儲け優先の、パピーミルと呼ばれる悪徳ブリーダーから購入した場合、健康上の問題を知らずに購入して、後に問題が出ることも。「ここでは、専属の獣医が全ての動物の健康をチェックし、治療も行います。慢性病などを持つ場合は問題点を明らかにして、新しい飼い主に伝えます」。病気とわかっていて引き取る飼い主は、動物の面倒を見る覚悟ができているため、それを理由に手放したりはしない。「動物が抱える問題を明確にすることで、そのペットに適した家庭に引き取ってもらえます」と、アマンダさん。

フォスター(里親)制度も非常に大きな役割を担う。登録されている動物の全てが施設内に収容されているわけではなく、多くはフォスター・ファミリーと呼ばれる里親の家庭が世話をしている。里親登録は約800家族にも上る。「普通の家庭にいるほうが、動物にとっては心身両面において良い環境。本来の性格もわかるようになるため、情報がより正確になります。ここに来る多くのペットは健康上、何の問題もありません。避妊手術、予防注射、歯の治療が必要なくらいで、そうした処置は施設内で行っています」

特定のメソッドを用いて犬の行動診断をし、それぞれの犬がどういう家庭に向いているか検証もしている。たとえば、子どもがいる家庭が良いのか、他の人間やペットに対してどういう反応をするのかなどを細かく評価し、飼い主とペットのベスト・マッチングを目指している。


ボランティアを通して、無償の愛情を与える喜びを学ぶ

アニマル・シェルターのボランティア
スワンバーグ恵子さん

スワンバーグ恵子■キング郡アニマル・シェルター12年、シアトル・ヒューメイン6年のボランティア歴。犬のトレーニング、犬・猫のビデオ制作を行う。これまで150匹以上の犬、猫の里親に。犬のトレーニング学校で助手を務めている。現在、飼い犬2匹、飼い猫3匹。

約18年前に犬のウォーキングのボランティアを始めたのがきっかけで、ボランティア活動をするようになったという恵子さん。それまでは犬も猫も飼ったことはなかったが、今ではすっかり動物の虜になっている。

「アニマル・シェルターとひと口に言っても、ピンからキリまであります。動物にとって環境の悪い施設も多いのが現状。これからはシアトル・ヒューメインが手本となり、他の施設も改善されていくことを願っています」

シアトル・ヒューメインでは、病気、あるいは性格に問題があるため、新しい飼い主が見つからない動物でも殺処分はせずに、医療手当や訓練、リハビリを行っている。「たとえ引き取り手が見つからなくても、ホスピスなどで最後まで面倒を見ます。そこまでできる施設はほとんどありません。私はよくホスピスで里親をしますが、クリニックの設備は本当に素晴らしくて、医療面は全てサポートできます」。ワシントン州立大学と提携して獣医の卵が単位を取りながら動物を助ける仕組みも確立されている。「新しい飼い主が無料で受けられる6週間のドッグ・トレーニング・クラスは、犬の賢さを生かしたいわゆるポジティブ・トレーニングで、犬を叱ったり、体罰を与えたりということはしません。一般向けのクラスもありますよ」

シアトル・ヒューメインはワシントン州立大
学の獣医学部と提携。学生はここで生きた治
療を学べる

フルタイムの仕事の合間を縫って、犬のトレーニング学校で週2~5クラスの助手を務め、犬・猫の里親になり、アニマル・シェルターでは犬・猫のビデオ制作と広報ボランティアを行い、体力作りのためにキックボクシングもこなす。自宅にはペットが5匹いるので、その世話も必要だ。恵子さんいわく、「夫の協力があるので、とても助かっている」そうだ。

ボランティア活動を通して恵子さんが得られたもの、それは「動物に無償の愛情を与える喜び」という。「いろんな家庭をたらい回しにされてアニマル・シェルターに来る動物たち。それでも頑張っている動物は、みんな強いと思う。動物の世話はもちろん、難しい動物でも辛抱強くトレーニングするという我慢も学びました」

ボランティア活動の現場では、同じ目的を持った人とたくさん知り合い、一生の友だちもできたと話す恵子さん。最後に「動物の人生は人間次第。どうか一生大切にしてあげてください」というメッセージをもらった。

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ライター、編集者。関西の出版社に8年勤務の後、フリーライターに。語学留学のため渡米。シアトルのESL卒業後スカジット郡に居住し、エッセイ寄稿や書籍翻訳などを手がける。2006年より『ソイソース』の編集に携わり、2012年から2016年まで編集長を務める。動物好きが高じてアニマル・マッサージ・セラピストの資格を取得。猫2匹と暮す。