9.11後の2005年、さらなるセキュリティ強化のために連邦議会は、Real ID法を可決しました。Real ID法とは、「書類偽造を防ぐために、連邦政府は個人のID書類に一定の基準を設定すべき」という勧告に基づいて策定されたもので、連邦政府の協力のもと、州政府が発行する運転免許証などのID書類の正確性と信頼性の向上を目的としています。
例えば連邦政府ビルへの入館時のようにReal ID法に基づく連邦政府関連の目的に必要な身分証明書は、運転免許証や身分証明書(IDカード)発行の際に米国市民権保持者である証明か、グリーンカードやビザなど米国に正当な在留資格があるという証明がなされていることが要求されます。
Real ID法は2005年に可決された法律で、最初の予定よりも遅延があるものの、施行は段階に分けて実施されており、現時点ではいくつかの重要な連邦政府施設においては、同法に準拠した身分証明書でしかアクセスが許可されていません。最終段階では、民間航空機搭乗(飛行場のセキュリティ・チェック・ポイントでの身分確認)に同法に準拠した身分証明書が求められることになり、予定では2016年には、この段階に移行することになっています。
これを意識してか、最近連邦政府は、ワシントン州の運転免許証および身分証明書において同法の施行免除期限の延長申請を拒否し、同法順守まで3カ月間のみの猶予期間を与えました。
現在、州政府発行の運転免許証・身分証明書を取得する際に米国での法的な在留資格の証明をしなくていいのはワシントン州とニューメキシコ州のみとなっています。ニューメキシコ州の同法の順守期限の延長申請も、ワシントン州同様却下されたようです。他の州では、米国での法的な在留資格の証明ができない場合は、運転免許証・身分証明書の発行ができない、もしくは発行されても身分証明書としての効力が制限される、という処置がとられているようです。
実はワシントン州では、現時点でも希望者には別途の料金で同法に準拠した運転免許証・身分証明書の発行が可能です。この基準での運転免許証は、Enhanced Driver Licenseと呼ばれています。ワシントン州議会では、Real ID法に準拠するために、米国での法的な在留資格を確認したうえでの運転免許証・身分証明書の発行、そして米国での法的な在留資格の証明ができない場合には、その身分証明書としての効力を制限する運転免許証の発行を行う新しい法律案を上程していましたが、それを審議する前の7月に議会が閉会してしまいました。ワシントン州上院交通委員会の委員長は、来年1月に議会が招集される時に、再度この議案に取り組むと述べています。しかし、連邦政府の当初予定では、来年以降同法に準拠していないワシントン州の運転免許証・身分証明書では、民間航空機への搭乗ができなくなる可能性があります。
民間航空機搭乗の際の身分証明書としては運転免許証のほかに、米国パスポート、外国政府発行のパスポート、グリーンカードなどの代替はあるのですが、ワシントン州議会での審議の遅れを考えると、米国内旅行の際でもパスポートを携帯する必要が将来出てくるかもしれません。
[知っておきたい移民法]