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知っておきたい離婚のリアル <ハーグ条約Q&A>

国際結婚をしている人、考えている人必読!日本とは少し違うアメリカでの離婚について、経験者や専門家の声、専門機関の情報を交えてレポートします。

※以下の内容は参考情報として掲載しています。実際の国際離婚手続きは個々のケースにより異なりますので、弁護士などの専門家、または専門機関にお問い合わせください。

取材・文:小林真依子、ハーモニー・ケリー、ハントシンガー典子

 

アメリカを離れて、子どもと日本で暮らしてもいい?

 

「離婚しなくても別居でいいから、子どもを連れて日本に帰ってしまいたい……」。そんなふうに思う人もいるかもしれませんが、ちょっと待って!知らないうちに犯罪者にならないように、ハーグ条約について知識を身に付けておきましょう。在シアトル日本国総領事館に話を聞きました。

 

Q ハーグ条約って何?
A

国境を越えて不法に連れ去られた、または留置されている子を元居住国へ返還すること、国境を越えた親子の面会交流権を確保することを実現するための、国際協力の枠組みです。世界的に人の移動や国際結婚が増加したことで、1980年10月25日に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」を作成。2018年4月現在、世界98カ国がこのハーグ条約を締結しています。

国境を越えた子の連れ去りは、子にとって、それまでの生活基盤が突然急変するほか、一方の親や親族・友人との交流が断絶され、また異なる言語文化環境へも適応しなくてはならなくなるなど、有害な影響を与える可能性があります。ハーグ条約は、そのような悪影響から子を守るために、

  1. 原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みや
  2. 国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力

について定めています。

①子を元の居住国へ返還することが原則

ハーグ条約は、監護権の侵害を伴う国境を越えた子の連れ去りは子の利益に反する、どちらの親が子の監護をすべきかの判断は子の元の居住国で行われるべきであるとの考慮から、まずは原則として子を元の居住国へ返還することを義務付けています。

②親子の面会交流の機会を確保

国境を越えて所在する親と子が面会できない状況を改善し、親子の面会交流の機会を確保することは、不法な連れ去りや留置の防止、子の利益につながると考えられることから、ハーグ条約は親子が面会交流できる機会を得られるよう締約国が支援をすることを定めています。

 

Q ハーグ条約に引っかかるとどうなるの?
A

婚姻中にしろ離婚後にしろ、もう一方の親の監護権侵害を伴う国境を越えた子の連れ出し、もしくは留置(子どもをもともと住んでいた国に返さないこと)は、返還申請対象になる場合があります。

親権の帰属は子の返還が実現した後に、改めて裁判などで決まりますので、「子の返還」=「親権が連れ去られた親に変わる」ということではありません。

しかしながら、米国では監護権の侵害は犯罪となる可能性がありますし、場合によっては誘拐罪として重罪に問われます。いざ子が返還された場合に、米国で改めて親権を決める裁判が行われますが、連れ去り行為が誘拐罪とみなされていると、その裁判のために米国に入国する際に逮捕される可能性があります。なお、申請があれば必ず返還がなされるわけではなく、条約では返還拒否事由として以下のものが定められています。

  1. 連れ去りから1年以上経過した後に裁判所への申し立てがされ、かつ子が新たな環境に適応している場合
  2. 申請者が連れ去り時に現実に監護の権利を行使していなかった場合
  3. 申請者が事前の同意または事後の黙認をしていた場合
  4. 返還により子が心身に害悪を受け、または他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合
  5. 子が返還を拒み、かつ子が、その意見を考慮するに足る十分な年齢・成熟度に達している場合
  6. 返還の要請を受けた国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により返還が認められない場合

ただし、1~3および5が認められたとしても、なお子を元いた国(常居所地国)へ戻したほうが子の利益になると判断された場合は、返還されることとなります。

4の典型的な例としては、元いた国で子が親からDVを受けており、返還するとさらに被害を受ける可能性がある場合があります。注意点としては、返還拒否事由は裁判での材料となるものであって、連れ去られた親から返還援助申請がなされれば、結果として裁判へ対応する必要性が生じる可能性があることです。

最終的に判断するのは裁判所であり、DVや育児放棄があった(と連れ去り側の親が思っている)からといって、必ず返還が拒否されるわけではないので、自分で安易に判断しないことです。出国する前に、DV支援団体やハーグ条約に詳しい弁護士に相談することが重要です。

 

Q 国籍や年齢は関係する?
A

子どもや親の国籍は問いません。以下の条件により、ハーグ条約の対象となります。

ハーグ条約の対象となる子どもの条件

  1. 16歳未満
  2. 子が継続して住んでいた国(常居所地国)が条約締約国(ハーグ条約加盟国)であること
  3. 子が現在所在している国(連れ去り先の国)が条約締約国であること

 

申請者(連れ去られた親)の条件

子の常居所地国の法令に基づいて子についての監護権(または面会交流権)を有しており、当該権利が現に妨げられていること。

当地で多い、米国人と結婚した日本人が、子ども(国籍は問わない)を米国から日本へ連れて行くケースは、当然返還申請対象になります。条約未締約国の国籍人と結婚していたとしても、子どもを米国から日本へ連れて行けば、配偶者や子どもの国籍にかかわらず、やはり返還申請対象になります。

他方、両親と子どもの国籍が全てハーグ条約締約国であったとしても、子どもを条約未締約国のベトナムに連れて行った場合、ベトナムに住んでいる限りは、ハーグ条約に基づく返還申請対象にはなりません。

 

日本で返還請求されたら、どうすればいい?
A

日本の中央当局である外務省ハーグ条約室に連絡してください。一方の当事者の代理をするものではなく、子の利益を最優先に両当事者に対する支援を行います。具体的には、当事者間の連絡の仲介、裁判外紛争解決手続(ADR)機関の紹介、弁護士紹介制度の案内、面会交流支援機関の紹介などで
す。アメリカでの問い合わせ先は、領事館となります。

 

問い合わせ

|在シアトル日本国総領事館
601 Union St., #500, Seattle, WA 98101
☎206-682-9107(平日9am~5pm)

|外務省領事局ハーグ条約室
100-8919 東京都千代田区霞ヶ関2-2-1
☎03-5501-8466(平日9am~5pm)
hagueconventionjapan@mofa.go.jp

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